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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)6714号 判決 1954年8月20日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人藤井英男、同上田誠吉の上告趣意第一点について

論旨は憲法三一条違反をいうが、その実質は法令違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。なお、刑法二〇八条にいう暴行とは人の身体に対し不法な攻撃を加えることをいうのである。従って第一審判決判示の如く被告人等が共同して判示部課長等に対しその身辺近くにおいてブラスバンド用の大太鼓、鉦等を連打し同人等をして頭脳の感覚鈍り意識朦朧たる気分を与え又は脳貧血を起さしめ息詰る如き程度に達せしめたときは人の身体に対し不法な攻撃を加えたものであって暴行と解すべきであるから同旨に出でた原判示は正当である。

同第二点について

憲法二八条は勤労者の団結権、団体交渉その他の団体行動権を保障しているが、この保障もかかる勤労者の権利の無制限な行使を許容し、それが国民の平等権、自由権、財産権等の基本的人権に優位することを是認するものではなく、従って勤労者が労働争議において使用者側の自由意思を剥奪し又は極度に抑圧するような行為をすることを許容するものではない(昭和二三年(れ)一〇四九号同二五年一一月五日大法廷判決、集四巻一一号二二五七頁以下参照)。そして、被告人等の本件犯行は昭和二五年五月一九日及び二二日の両日になされたものであるが、昭和二四年法律第一七四号により改正された労働組合法一条二項の規定も同条一項の目的達成のためにした正当行為についてのみ刑法三五審の適用を認めたに過ぎないのであって、勤労者の団体交渉においても、刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでないと解すべきことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二二年(れ)三一九号同二四年五月一八日宣告、集三巻六号七七二頁以下参照)とするところである。原判決の是認した第一審判決の認定した事実によれば、被告人等が所謂職場交渉をなした際、それぞれ他の組合員と共に多衆の威力を示し、且つ共同し判示のような歌を高唱したり或は大太鼓または鉦等を連打したりして喧噪に及びよって会社側職員である石塚長一外七名又は森田正明外一名を悩まして暴行を加えたというのであって、かかる被告人等の所為が、労働組合法一条一項の目的達成のためにする正当行為であるとは認めることができないことは前記判例の趣旨に徴し明らかである。されば、原判決には所論のような違法はなく、論旨は採用することができない。

被告人中島幸蔵、同本砂博、同長山政男の各上告趣意について

いずれも事実誤認、法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

なお、記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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